大方潤一郎 (東京大学 都市工学専攻 教授) 定年記念 連続セミナー 2018.11.12-2019.1.21
熟成期のまちづくりビジョン:包摂と支援の生活圏をつくる
update 2019年1月16日
1960年代を潮目に2000年続いた世界の文明の急成長期は変曲点を過ぎ、安定的な高原期に向かう緩やかな減速期に入ったという(見田宗介「現代社会
はどこに向かうか」岩波新書、2018)。都市づくりについても、都市の成長する力を導くことを通じて都市空間を形づくろうとした時代は終焉を迎えつつあ
る。特に人口減少・超高齢社会化が進む日本では、今ここにある都市・農村空間を、より暮らしやすい、何世代にも渡って住み続けられるような、新しい時代の
人間生活圏へと熟成させる共創的まちづくりの仕組みが必要になっている。
そもそも日本の都市空間は初期市街化の過程において都市計画の手が及ばなかったという点で、あるいは適用された都市計画の水準が低かったという点で、少
数の例外をのぞき、都市計画に失敗した空間ばかりである。そうした空間を、これから「理想的」な「コンパクトシティ」に変えようとしても無理だろう。
無闇に高密度・連担の「コンパクト」な市街地とすることを求めない。スプロール化や空洞化の結果として生じた居住空間のスポンジ化・多孔質化を活かす。
徒歩圏に閉じこもらず、多様な移動手段を取り入れ様々な場所へのアクセシビリティを高める。身近な「第3の居場所」と、多様な交流と支援のつながりを醸す
場をつくる。そうして、ながく暮らし続けられるまちやむらをつくりたい。
そのような「熟成期のまちづくり」のビジョンと方法論について、当研究室出身の若手の大学教員の皆さんを中心に、ゲスト講師の先生方の力も拝借して、広く公開で議論する連続セミナーを以下のスケジュールで開催します。
セミナーの様子はYouTube都市計画研究室チャンネルより実況中継の予定です。 https://tinyurl.com/uplab-channel
スケジュール
第1回: コンパクトシティのパラドックス: コンパクトでも暮らしやすいとは限らない
<2018年11月12日(月)18:30〜21:30 東京大学本郷キャンパス 工学部11号館 講堂>
- 全体趣旨説明:大方潤一郎(東京大学) 資料
- 報告1) 輝く都市 — タワマン街の夢と現実: 野澤千絵(東洋大学) 資料
- 報告2) 田園都市 — TOD型アーバンビレジの夢と現実: 藤井さやか(筑波大学) 資料
- PD) コンパクトな居住地の○と×
野澤千絵、藤井さやか、大方潤一郎、他
-
ハワードの「田園都市」とコルビジェの「輝く都市」は、コンパクトな居住地の2大モデルであるが、それを日本で(中途半端に)現実化したような居住地の実
態は十分に暮らしやすいものとはなっていない。日本のコンパクトな居住地には何が足らないのか。どうしたら暮らしやすくなるのか。
- まとめ
- 最近急増中の日本のタワマン街は、パブリックスペース(特に建物の地表階や街路沿道)の量も質も貧しく、人々の交流や街へ
の愛着を育む可能性に乏しいことの他、管理費・補修費が高いことと、規模が大きいこと、投資目的のオーナーが比較的多いことなどから、将来の維持管理が危
ぶまれ、建替えの困難も予想されることから、将来の世代に「負の遺産」を残すことになる蓋然性が高い。その意味で、サステナブルでない。老朽化した場合の
維持管理および更新の仕組みを建設当初からビルトインしておく必要がある。
- 大規模な郊外計画開発住宅団地は、団地内の公共公益施設やコミュニティスペース等が、開発当初から乏しかったり、開発後数
十年を経て老朽化・陳腐化・消滅したりで、車に乗らないと買い物や交流の場、第3の居場所や地域活動の場にアクセスできないことが、高齢者にも子育て家族
にとっても、暮らしにくさの大きな原因になっている。また、土地利用規制のために、住民が運営する店舗やサービス施設、交流施設等が住宅地内に立地しにく
いことも、暮らしを貧しくする要因になっている。こうした非住宅機能が、適切な場所に、適切な様態で発生してくることを可能にする仕組みを導入する必要が
ある。
第2回: 人生百年時代の包摂と支援の生活環境をつくる: コンパクトシティの住環境再考
<2018年11月19日(月)18:30〜21:30 東京大学本郷キャンパス 工学部14号館 141講義室>
- 趣旨説明:大方潤一郎(東京大学) 資料
- 報告)活力ある超高齢社会を実現する地域生活環境基盤整備: 後藤純(東京大学) 資料
- PD)「歩いて暮らせるまちづくり」から「歩けなくても暮らせるまちづくり」へ: 原田昇(東京大学)、大森宣暁(宇都宮大学)、二瓶美里(東京大学) 資料(大森) 資料(原田)
- 全体討論)社会的包摂と社会活動を促進する地域の支援的生活環境のあり方とつくり方
-1920年代アメリカで発
明された「近隣住区モデル」は専業主婦のいる子育て家族のための郊外住宅地モデルであった。そこでは子どもと主婦が通過交通に出会わず歩いて基礎的日常生
活施設にアクセスできることが目標であった。一方、高齢者の社会的包摂と社会参加を促進し、健康自立寿命を最大化し、最期まで在宅で暮らせるような地域社
会を実現するためには、様々な公共公益施設や交流と活動の場に「歩けなくても」アクセスできる地域環境を実現する必要がある。どのような施設や場を、どの
ように配備し、どのようなアクセス環境(移動支援環境)を整備すべきか。
- まとめ
- 高齢者の健康自立寿命を延伸するためには、適切な食事、心身の運動・活動、休息に関する生活習慣を維持すること、そのためには、家に引きこもらず・孤立化せず、社会的交流を維持すること、すなわち、外出し、移動し、様々な交流や活動の場(居場所)にアクセスし、活動的な時間を仲間とともに過ごすことが重要である。したがって地域生活圏の空間構成については多様な交流・活動の場の整備とアクセシビリティの確保が重要である。
- 要介護高齢者向けサービスについては、訪問サービスやお迎えサービス、移動支援機器を利用
してのアクセスが主体となること、介護予防・健康づくり活動や地域の交流や地域活動の場や、ショッピング、レクリエーションの場については、都市圏全体の
拡がりの中の多様な行き先にアクセスできることが重要であることから、固定的・排他的な徒歩圏サイズの住区に閉じた施設配備方式は望ましい空間構成とはい
えない。都市内のどこにでも容易にアクセスできるようにすることが施設の不足や偏りをカバーする最も有効な方策である。
- 歩行に障碍のある人や、子どもとともに移動する人が、自由に移動できるよう助ける移動支援機器は、電動アシスト機能やAIの導入
で、近年、急速に進化している。単に、歩ける人が安全安心に歩行できるだけでなく、こうした移動支援機器を安全快適に活用できる地域の交通インフラを形成
することがきわめて重要である。その際、道路が狭く網構成も貧困な日本の一般市街地における交通環境の改善については、道路網構成の大きな改変を行わなく
とも、通行速度の制限や、一方通行化・ボンネルフ化、路外のバスシェルターや休憩スペースの設置など、様々な工夫によって「歩けなくても暮らせるまちづく
り」は可能である。
第3回: スポンジ化する郊外の熟成を考える: スポンジ化を活かす様々な取り組み事例から
<2018年12月3日(月)18:30〜21:30 東京大学本郷キャンパス 工学部14号館 141講義室>
- PD1) 計画開発郊外住宅地の生活環境づくり: 均質な戸建て住宅地モデルからの離脱:室田昌子(東京都市大学)、大月敏雄(東京大学)、藤井さやか(筑波大学) 資料(室田)
- 空き家・空き地の活用手法/隣地買い/居場所・たまり場づくり/住民ベースの見守り・生活支援/移動支援・買い物支援
- PD2)農住混在スプロール住宅地のリモデリング: アーバン/ルーラルの2分法からの離脱:浅野純一郎(豊橋科学技術大学)、姥浦道生(東北大学)、村山顕人(東京大学) 資料(浅野) 資料(姥浦・村山)
- ジーバーツのグリーンアーバン空間理念の再検討と、様々な分散型居住空間形成の事例: 安曇野、群馬県、三重県…
- 低密度化する居住地のリロケーションは可能か。可能であってもトータルな社会的費用の節減とCO2排出量の削減になるのか。こうした場所での暮らしを維持するためにはどうすべきか。
- まとめ
- 個々の住宅の敷地ごとに管理の大変な広い庭園を持つよりも、小さなまとまりの住宅群の周囲に、小さな田畑や林、コモンガーデンのある生活圏の方が、むしろ暮らしやすくて効率的なのではないか。
- スポンジ空間=空き家・空き地・都市内農地・山林の多様な使い方を考案しよう。/スポンジ空間をコミュニティでマネジメン
トする多様な方法を考案しよう。/スポンジ化した地域空間を、コンパクト化するのではない、たたんでしまうのでもない、多様な構成要素を包み込んだ新しい
緑住空間に熟成させていこう。
- 密度を上げすぎない・下げすぎないこと。車に脅かされず、移動支援機器や自転車が安全快適に使えるような、道づくりがポイントか?
第4回: まちなかの熟成:空間変容のマネジメントと空間文化の維持再生
<2018年12月17日(月)18:30〜21:30 東京大学本郷キャンパス 工学部11号館 講堂>
- PD1)大都市の下町的まちなか居住の変容: 変容する木密市街地の将来像:中村仁(芝浦工業大学)、松本暢子(大妻女子大学)
- マンションとミニ3階戸建に変容する低層木造密集市街地のゆくえ
- 高度化を通じた防災性向上をめざすジェントリフィケーションが進む地区で失われていく地域の空間文化をどう維持再生していくべきか。一方、更新が進まず立ち枯れていくような地域をどうするか。
- PD2) 地方都市の中心市街地の再生: 地域活性化と居住再生の両立戦略:山下博樹(鳥取大学)、杉崎和久(法政大学) 資料(山下)
- 地域資源(=歴史資源)を活かした地域活性化戦略と静穏な地域の暮らしの両立とは?
-
地方都市の中心市街地では、歴史的資源を活かした移住誘致や観光振興による経済的活性化が盛んになりつつある一方、「まちなか居住」の将来像が見えない。
飲食店と土産物屋と博物館と駐車場と若干のオフィスビルと何本かのタワマンのまちになってしまうことでいいのだろうか。地域活性化と居住再生を両立させる
戦略はないのだろうか。
第5回: 都市・地域空間の共創的マネジメント手法(1)
<2019年1月7日(月)18:30〜21:30 東京大学本郷キャンパス 工学部14号館 141講義室>
- 報告1)広域土地利用計画のあり方:姥浦道生(東北大学) 資料
- 報告2)生活圏の中と縁辺部の緑の保全と育成:秋田典子(千葉大学) 資料
- PD)大きな緑・小さな緑の保全と育成の計画論と制度論:(姥浦道生、秋田典子、野澤千絵、藤井さやか(病欠)、村山顕人) 資料(野澤) 資料(村山)
-
市街地の成長管理、居住や職場・集客施設・中心拠点の配置コントロール、緑地・農地の保全等の機能を果たすことが期待される広域的土地利用計画であるが、
これまでのところ日本では国土利用計画と5個別法による諸計画・規制のパッチワークでやりくりしてきたところに、近年では、さらに立地適正化計画が加わ
り、いよいよ広域的な市街地成長管理のポリシーの一貫性が失われつつある。都市農村空間を一体的に取り扱う広域的土地利用計画制度を先進国レベルのものと
して構築するには、どのようにしたらよいのか?
- 第3回でも重視された住宅地や一般市街地の内部やフリンジに存在する小さな緑農地や空き地を、どのように共創的に保全活用再生し、緑豊かで暮らしやすい・暮らして楽しい地域空間をつくることができるのか?
- あるいは、こうした小さなオープンスペースと、空き家の活用・転用によるコミュニティスペースや店舗等の組み合わせによる「マイクロ拠点」の可能性とは?
- これ以上の市街地の拡散や進行市街地の密集化を抑制しながら、多様な緑住的空間を望ましいスタイルの空間に導いていく自治体土地利用計画とその広域調整のための広域計画とはいかなるスタイルの計画なのか?
第6回: 都市・地域空間の共創的マネジメント手法(2)
<2019年1月21日(月)18:30〜21:30 東京大学本郷キャンパス 工学部11号館 講堂>
- 報告1) 都市づくりビジョンを共創するツールとしての都市マスタープラン:村山顕人(東京大学)資料
- 報告2)郊外住宅地等でのスポンジ空間の活用手法について:藤井さやか(筑波大学)資料
- 報告3)まちを熟成させる土地・家屋の使い回しの方法論について:野澤千絵(東洋大学)資料
- PD)都市レベル・地区レベルの「まちづくり共創プラン」の作り方と「熟成のまちづくり体制」への転換の戦略:
(姥浦道生、秋田典子、野澤千絵、藤井さやか、村山顕人、後藤純、大方潤一郎)
- まちの熟成=土地家屋の使い回し・人が集い活動する公共空間の充実・歩けなくとも暮らせる交通環境の整備=のビジョンと仕組みをつくること
- 大きな枠組み(広域)、中ぐらいの枠組み(自治体)、小さな枠組み(地区)
- 緑農地を残し活かす仕組み・空き家空き地の多様な活用の仕方を可能にする仕組み・公共交通不便地域における移動支援の仕組み
- 住民・行政・民間事業者・専門職のパートナーシップによる地域共創のしくみ
- 都市計画・農振計画・地域包括ケア(介護保険制度)・生涯教育(教育委員会)・コミュニティ活動(総務省)の一体化—>自治体内に(本来の)総合エリアマネジメント担当者を置くことから?
- 国交省・農水省・総務省の3すくみをどうするか?
- 法律と条令のハイブリッドで?
延長戦: 【ラウンドテーブル】振り返りとまとめ
<2019年3月11日(月)18:30〜21:30 東京大学本郷キャンパス 工学部14号館 141講義室>
- ラウンドテーブル:「熟成期のまちづくり」のビジョンと実現の仕組: 資料
(山下博樹、姥浦道生、秋田典子、野澤千絵、藤井さやか、村山顕人、後藤純、大方潤一郎)
アクセスマップ
工学部11号館講堂(工学部11号館1階)
工学部14号館 141講義室(工学部14号館1階)
※ 本連続セミナーは公開・入場無料・事前登録不要です。
※ 全回、18時開場予定です。
※ 本連続セミナーを踏まえて2019年に学芸出版社より書籍を出版する予定です。
※ 本連続セミナーのチラシ(ver.20181116)はこちら