大方潤一郎 「2.5次元の土地利用概念を超えて」 『統計』 44:8 (1993), pp.22-27.

2.5次元の土地利用概念を超えて

        横浜国立大学建築学科 助教授 大方潤一郎

1. はじめに
 編集部から与えられた題は「日本における土地利用の現状と問題点」であったのだが、限られた紙数で日本における土地利用の現状を目配りよく概観し、都市政策などの観点からみた問題点を要領よく指摘することは、筆者の能力を超えているような気がするし、地域ごとに、また都市ごとに異なっている土地利用上の問題点を無理に概括すれば、たいていの教科書に書かれているようなことを羅列するにとどまってしまいそうな気もする。
 そこで、勝手ながら本稿では日本の「土地利用」の問題点ではなく、日頃、東京や横浜など関東の大都市の土地利用の実態を調査研究する立場に身を置く者として常々思い悩んでいる日本の「土地利用概念」の曖昧さ、これとかかわる「土地利用調査」の問題点について、この機会に多少の整理を試みることにしたい。

2. 制度的枠組みの中での土地利用区分
 日本の都市的土地利用に対する直接的コントロールは、もっぱら建築規制を通じて実現される制度構造になっている。都市的街区形成のコントロールという点では、開発許可制度や土地区画整理事業も関わるが、土地利用という概念を、土地がどのような機能・形態の下に具体的に利用されているかを指し示す概念と考えれば、これらはもっぱら街区の形態を規定するだけで、土地の利用の仕方の内容をコントロールする仕組ではない。つまり建築行為を伴わない限り土地利用をコントロールするきっかけが存在しないのが日本の都市的土地利用コントロールの特性である。
 建築行為にともなって建築確認が申請されれば、申請書には建築する建物の用途が一応記載される。したがって当該建築予定建物の敷地の土地利用用途もまた一応、予定としては定まることになる。ここで「一応」という留保をつけているのは、確認申請書に記載されている用途はあくまで建築予定の建物の用途であって、当該建物が予定通り建築され、しかも予定通り利用されて初めてその土地の利用用途が申請書記載の用途に落ち着くということで、当該敷地の土地利用は、着工前は一般に空地であり、竣工までは建築現場であり、入居前なら空き家である。しかも申請書どおりの建物が必ずしも建つとは限らず、さらに竣工後も予定の用途に利用されるとは限らないからである。
 一方、建築行為を伴わない都市的土地利用というものも、もちろん実態として存在していることは言うまでもない。たとえば青空駐車場である。農地転用の許可対象となる農地や、木を伐採することが規制されている地域を除けば、特段の宅地造成等を行わない限り、たとえば空き地にアスファルト舗装を施し、白線を引き、看板のひとつも立てて青空月極駐車場として利用するには何の許可も届出も必要ないことである。したがって市街化調整区域であろうと、第一種住居専用地域であろうと、前面道路の幅員が何メートルであろうと、駐車場の規模がどれほどだろうと、事実上どこでも青空駐車場を設けることができる。
 ところが、青空駐車場でなく、屋根のついた車庫を設けようとしたとたん、これは建築行為ということになり、たとえば、第1種住居専用地域であれば独立の車庫はまったく建てることができず、付属建築物としての車庫であっても300平米を超える車庫を建てることはできない。独立した土地利用としての駐車場は屋根をかけない限りどんなに大きなものでも制限されないにもかかわらず、わずかな屋根でもかけたものは厳しく制限される。土地利用としては一見同じ駐車場であっても、建築行為を通じた土地利用規制という制度枠組みの中では、「屋根無し駐車場」と「屋根付駐車場」とはまったく異なった制度的扱いを受けている。現実にそうである以上、土地利用の実態を調査するにあたっても、屋根のあるなしで駐車場の土地利用カテゴリーを区分して考える必要が生ずる。各々の土地の利用の実態に即して客観的に土地利用用途を区分することが土地利用調査であるといっても、土地利用用途の区分とは単に社会的・文化的な枠組みの中にあるだけでなく、きわめて流動的な制度的枠組みの中にあるものと考えざるをえないのである。

3. 土地利用用途とは
 農地か宅地かといった土地の性格の弁別は現場を見れば比較的容易である。実態と合致しているかどうかを別にすれば登記簿にも地目の別が記載されている。しかしながら都市的土地利用とは、つまりは宅地の用途細目であり、これは土地というより、そこに建っている建物の用途によって決まるのが日本の制度的枠組みである。しかし建物の用途というものも、実は建物そのものによって決まるのではなく、建物の使われ方によって決まる。つまり都市的土地利用用途は、その土地の上で繰り広げられている人間の活動の態様によって決まると考えるのが正確なところであろう。
 土地や建物自体は無性格でありうる。倉庫のような単純な建物の一角に台所と便所を付け足したような建物を建てるとする。確認申請の際、これは住宅であると申請することももちろん可能である。たくさんの物資を収納しておけば倉庫ともなり、それをその場で販売すれば店舗となり、中を片付けてダンスホールとすることもでき、酒を出して接待すればキャバレーにもなる。制度上は違法転用、もぐり営業ということで、建物の建築基準法上の用途はあくまでも住宅のままであるが、土地利用の実態は人間の活動いかんで様々に動いていく。現実に、もとは工場や倉庫であった数階建ての建物が、各階ごとに様々な使われ方に転用され、ロフトとしか呼びようのない建物もある。これはもはや住商工といった区分に納めようのない土地利用であるが、無理に従来の呼び方を当てれば「雑居ビル」ということになるのだろうか。

4. 土地利用単位の一体性とは
 建物の使われ方で土地利用用途が決まるとして、では、その活動を乗せている土地の範囲はどこまでか、ということが、これまた良く分からない。
 なるほど、建築確認申請の際には当該建物の敷地の範囲が明示されるが、敷地とするためには所有権の有無は問われない。隣接する建物の敷地として、かつて確認申請された土地であっても、自分の建物の敷地とすることも不可能ではない。この場合、隣接する建物の敷地の方が狭くなったと観念され、結果的にその建物の建蔽率や容積率が規制値を超えることになっても、既存不適格ということで、建物を建て替えるまではなんのお咎めもない。これを逆に見れば、確認申請の時点で建築予定建物の敷地は名目上であれ一応確定するが、その敷地の一部はいつまた他の建物の敷地となるか分からないということでもある。
 塀などで敷地が仕切られていれば、常識にしたがって敷地の範囲を判断できそうだが、これも曖昧なケースが少なくない。
 たとえば、通りに面して月極駐車場があり、その奥に戸建の住宅があるとする。実はこの戸建住宅の確認申請にあたっては、住宅の庭らしき部分と月極駐車場の全部が、その敷地として申請されている。月極駐車場は青空駐車場であるから、設置にあたって建築確認を申請した経緯はない。実態上は駐車場と戸建住宅の間には生け垣があり、そこに簡単な門扉があり表札もついている。
 さて、この場合、土地利用現況図を作るとしてどのように地図を塗り分ければ良いのか。まず、戸建住宅とその庭らしき部分は「専用独立住宅」として、都市計画基礎調査等の慣習にしたがって緑に塗るところまでは良い。月極駐車場の部分はどうするか。確認申請に準拠するなら、ここも戸建住宅の敷地であり、つまり庭の一部を駐車場として貸していると解釈して緑に塗るのか。物的な空間形状に従って青空駐車場として別の色に塗るべきか。別の色ということにすると、土地利用現況図の上では、この戸建住宅は無接道の敷地に建つ違反建築ということになり、同じ色ということにすると駐車場の存在が見えなくなってしまう。
 もっと悩ましいのは次のような場合である。街道筋に面して車利用の客を当て込んだファミリーレストランがあったとする。その隣に2層式の駐車場がある。駐車場には無人のゲートがついており、有料時間貸駐車場となっているが、ファミリーレストランで一定額以上の飲食をすると2時間までの駐車券が発行されるシステムになっている。確認申請は別々に出されているが、建て主、経営者は同一である。さて、この駐車場の占める土地の土地利用はファミリーレストランの一部と考え飲食店(つまり商業)とすべきか、レストランとは独立の時間貸駐車場として扱うべきか。

5. 土地利用の更新とは
 土地に建つ建物の使われ方で土地利用が定まるとすれば、建物が建て替えられなくとも、その使われ方が変れば土地利用は変化したことになる。たとえば、老朽化した倉庫をショッピング・センター、ビヤホール、プチホテル等にリフォームした場合、これは外観上の建物の変化は伴わないけれども、土地利用の大きな変化・更新である。
 一方、用途は変らず、建物が建て替えられた場合も、土地利用用途の変化とはならないけれども、都市の土地利用の動態を把握する上では、土地利用の更新として実態を正しくとらえることが重要である。しかしこれはなかなか難しいことである。  確認申請をともなう建て替えであれば、まだ把握はしやすいが、これも確認を取ったまま着工しないものがあるということは別にしても、もとのどの建物を取り壊して建て替えたのか、という情報がほとんどつかめない。確認申請の不要な増改築、無届けの増改築、大修繕などは、なかなか実態をとらえることができない。
 二時点の航空写真を比較すれば大きな増築などは分かるとしても、少し細かいものであると、屋根を直したのか、物置や車庫を付けたのか、一部屋増築したのか、全面建て替えの結果なのか、判断は簡単でない。一方、地図に表現された建物外形線は航空写真から手作業でおこした線であるから、版ごとにどれも微妙に異なっていて、2時点の地図を機械的にコンピュータで精密比較すると、ぴったり同じ建物などひとつも無いという結果が出てしまう。
 そもそも、土地利用や建物の通時的同一性とは何をもって判定するのか、というところが実は良くわかっていないのである。

6. 複合開発と公共空間の立体化
 工場跡地の再開発などによって、ショッピングセンター、ホテル、オフィス、その他文化施設や住宅などが一体的に計画開発された大規模プロジェクトが数多く実現され、あるいは進行中である。これらの中には各種用途の建物が一体的総合的に計画され、敷地も一体とみなされているものも少なくない。こうした開発の土地利用は、おおざっぱにくくってしまえば「商業」ということでいいのかもしれないが、もうすこし細かく、つまり事務所なのかホテルなのか、といった具合に用途を確定しようとすると、とたんに行きづまってしまう。せめて建物ごとに塗り分けようと思っても、下層階がオフィス、上層階がホテルなどという日本一高いビルも出現している。従来から住商併用建築というカテゴリーは存在したが、こうした様々な用途が単に部屋ごとに雑居しているのではなく、高度に計画的な配慮の下に複合されている建築を、今後、どのようにとらえ、また記述していけば良いのだろうか。
 また、こうした大規模再開発にともなって、立体道路といったものが出現したり、ガラス屋根のかかった公園が出来たり、下水処理場の屋上が公園となったりする時代である。また建物の敷地の一部でありながら、公共広場または通路としての機能を果たす公開空地も数多く生まれ、しかもそれが地下レベルのサンクンガーデンであったり、建物の1階部分や中庭部分でしかも、屋根のかかったアトリウムであったり、と平面的にも立体的にも私的空間である建物や敷地の中で錯綜するようになっている。
 道路や公園は土地利用の表記として一般の建物の敷地と明確に区分される必要があるし、また不特定多数に公開されることを義務づけられている公開空地も、しかるべく区分されて表記されるべきものであろう。しかし、こうした公共的空間が立体化し建物敷地と錯綜しはじめた以上、もはやこうした表記を2次元の地図上で表現しようとすることは極めて困難になりつつある。

7. 2.5次元の調査を超えて
 これからの都市的土地利用の状況を把握しうる土地利用調査は、市街地の立体的形態を、たとえばコンピュータ内に3次元モデルとして組み立て、各フロアの用途に応じて属性を記述する、といった方法によらなければ、もはや必要な情報の質を保てないのではなかろうか。実態としての土地利用が現に立体化・複合化しつつあるだけでなく、都市計画上の用途地域制も92年の大改正により、住居系用途地域が細分化され、床面積の規模や位置する階に応じて非住宅用途が許容される用途地域カテゴリーが多段階に分かれ、しかも特別用途地区として中高層階住宅専用地区が設けられるなど、立体的な土地利用実態の把握が、単に学問的関心からだけでなく、行政実務的観点からも早急な課題になりつつある。
 今日、既に多くの自治体で土地建物利用現況調査データが地理電算情報(GIS)として集積されている。しかしながら、ほとんどの場合(というより筆者の知る限りではすべての場合)この土地建物利用情報は、従来の1/2500図を2次元図形情報化した上で、用途・階数・構造等の建物情報を、建物平面図形に対応づけたものである。情報の内容としては従来の1/2500図上に用途・階数・構造等を色塗りしたものと特に変るところはない。単なる2次元データに建物階数や地盤高などが付帯しているという意味で2.5次元GISと呼ぶべきものである。市街地の3次元的利用状況は、これまで巨額の費用をかけて蓄積された電算データではつかみきれない。都市の立体的土地利用の実態は、いくつかのケーススタディ地区の調査が様々な場で研究的に行われているのみで、全面的に調査されたこともなければ、集約・分析されてもいない。
 こうした立体的土地利用実態の調査をどのように行い、どのようなシステムを通じて集積し、どのように分析・評価するか。2.5次元の土地利用調査を超えて、有用かつ実施可能な3次元調査にいかにして至るか、これが研究上も実務上も、重要な、そして困難な、日本の土地利用調査の課題である。