「新建築」2002年5月号,p.21 所収

合意形成のデザイン:都市再生のために(1)

大方潤一郎

 

 都市再生特別措置法が制定された。建築基準法の改正も本誌が書店に並ぶ頃には峠を越しているだろう。

 今回の、建築基準法改正にはシックハウス症候群対策のための規制の導入といった単体規制の改正も含まれるが、主眼は集団規制の緩和手法の拡充・緩和手続きの明確化である。要点は、(1)再開発地区計画その他の緩和型地区計画を統合し、事実上、用途地域による規制を白紙化し地区独自の規制を定められるようにしたこと、(2)地権者、協議会、企業、NPO等が地権者の2/3の同意を得て地区計画や地区に関わる都市計画の決定・変更の提案ができるようにしたこと、(3)用途地域に応じて定める諸制限(容積率・建蔽率・斜線の傾き、日影その他)の選択メニューの拡大、(4)許可手続きによらず建築確認手続きのみで容積率や斜線制限の緩和を受けられる総合設計制度類似制度の創設、の4点である。

 このうち(1)(2)は、都市再生特別措置法による都市再生特別地区と事実上同様の仕組みである。ひとことでいえば、デベロッパー等が、ある地区の将来像について地権者の3分の2の合意を添えて提案すれば、行政は半年間の期限を切って審議を行い、提案が適切であれば、その地区について従前の用途地域その他の規制にかかわらず提案どおりの都市計画・規制を採用する、というものである。

 従来の再開発地区計画と似たような仕組みであるが、(1)独自に設定できる規制(建蔽率等々)の範囲を広げ「用途地域を白紙化する」という観念にほぼ近づいたこと、(2)都市計画決定を公式に提案できること、(3)提案後の審議期間が半年間に限定され審議過程の公開性にも配慮されていること、など再開発地区計画の創設時に積み残された課題の相当を解決した仕組みとなっている。これで、大規模再開発プロジェクトや、地区まちづくり計画は、硬直的な用途地域と連動した一般規制の桎梏をのがれ、もちろん周囲に著しい迷惑を及ぼさない限りではあるが、相当の自由度を獲得したわけである。しかも、地権者の2/3の合意があれば、従来は動きのにぶかった役所に対し公式の計画決定を迫ることができる。理不尽な規制のため良いプロジェクトが計画できないと不満を抱いていた建築家、プランナー、デベロッパーには大きなチャンスである。

 問題は「地権者の2/3の合意があれば」という点である。現実には2/3の合意に至る合意形成過程、つまり協議会等の結成・協議・代案検討・影響評価・周辺住民等も含む広汎な議論等の過程こそが重要であるのに、これについてはあいかわらず公式手続化されていない。また残り1/3以下の地権者の反対や、周辺住民等の反対については、説明会・公聴会・縦覧・意見書といった通常の都市計画決定手続きと同様な審議手続きしか用意されていない。

 従来、役所はデベロッパー等に、水面下の交渉等を通じた(ほぼ)全員同意のとりまとめを要求し、それまでは都市計画の変更や決定手続に入ろうとしない。それで再開発が進まない。だから2/3合意の段階で動きのにぶい役所を無理にでも動かし突っ走ってしまえ、というのが都市再生本部の意向であろう。

 しかし少数地権者や周辺住民の強い反対がありそうな場合、役所としては半年間という短い期間で反対意見を処理したり計画の修正を指導し合意形成をはかることは到底困難と判断するだろう。だから提案を受理する際に、これでは到底通りませんよ、提出しても却下されるだけですから地元や周辺の合意が取れた計画にして出直していらっしゃいといって、結局のところ、従来と同様、ほぼ全員同意のとりまとめを指導するだろう。そうだとすれば事前調整に従来と同様の長期間を要する状況はなにも変わらない。

 都市の再生を進めるためには、しかも質の高い空間として再生するためには、少数地権者の反対や、周辺住民の反対を押しつぶすのではなく、地区内はもとより、周辺住民も含め、徹底的な協議を通じて、一見相反するように見える要望や利害について、より高次の次元で両立させ初期の反対意見をむしろ積極的に取り込み活かすような空間的解決案を見出す合意形成過程が重要なのである。こうした協議過程の中でこそ建築家やプランナーなど専門家が優れたデザイン、魅力ある空間的解を提案する必要がある。また友好的で深い議論を導く技術を備えたコーディネーター(コミュニュケーションの専門家)も不可欠である。こうした、いわば多くの知恵を融合し凝縮する集団的熟慮の過程を経て、はじめて地域の歴史性や文化を反映した個性的で魅力的な街の姿が形象化されるのである。

 こうした合意形成の場を民間のデベロッパーやゼネコン等が主導することは困難である。どうしても地権者・周辺住民は「儲けのためにやっている」と見てしまう。こうした場は、自治体、あるいは自治体に委託されたNPOや専門家、都市公団等が公式にコーディネートする必要がある。つまり、こうした場は制度化され、予算化される必要がある。こうした公式の場における合意形成のシステムが機能して、はじめて再開発や都市の再生は円滑かつ迅速に進む。合意形成とは、金やタフな交渉や人情で各個に撃破する「同意の取り付け」とは全く異なる過程である。共同して共通の問題解決にあたろうという空気。お互いの共存を可能にし、これならば暮らしてみたい、これならば誇りに思える、という魅力的な空間的解決。合意を形成するのは、まさにデザインの力なのである。