大方潤一郎 「土地利用計画の課題と展望: 居住にかかわる都市的市街地の再構築をめざして」 『新都市』 48:1 (1994), pp.48-58.

土地利用計画の課題と展望: 居住にかかわる都市的市街地の再構築をめざして

                   横浜国立大学 助教授 大方潤一郎

1. 市街地形成における用途地域制の効果と役割の変化

 従来、日本では一般に、計画開発団地等を除き、居住を支える市街地の大半は木造2階建ての住宅や併用住宅によって構成されてきた。また、そのことを前提として土地利用・建築規制の枠組が定められていた。
 高々2階建てであれば、住居系なら容積120%、商業系でも160%を消化できれば不満はない。したがって指定容積率が基盤条件に比べて相当過剰な場合でも、前面道路幅員による容積率の逓減や、斜線制限等による規制もさほど厳しい制約とは意識されなかったし、結局のところ、用途容積地域指定の市街地形成に及ぼす効果も住宅や併用住宅が中心の市街地にとっては緩やかなものにとどまっていたといえる。
 そして、このような市街地の中で、たまたま条件の揃った敷地に建つ、突出した高さとボリュームの「マンション」が一種の「異物」として拡散的に増殖して来たのが新法成立以降の、つまり1970年代以降の、居住にかかわる市街地の一般的状況であったといってよい。
 しかし近年、3階建て以上の中高層建築における居住についても、その建設についても、市民の抵抗感は薄れつつあり、地価高騰・敷地細分化状況の下で、居住水準の向上、相続対策等をも視野に入れた土地活用、耐久性ある資産形成などを求めて、個人レベルの建替においても、3階以上の建物を建て、敷地に許容される限度一杯まで容積を活用しようとすることが、一般化しつつある。
 したがって、従来は強く意識されなかった敷地利用に対する法規上の制約が、強く意識されるようになると同時に、同じ用途容積地域であっても基盤状況・敷地形態によって複雑にその効果が変化する規制の詳細が、実際の市街地の立ち上がりに顕著な効果を及ぼすようになりつつある。きわめて単純にいえば、前面道路・敷地条件に応じて変化する「鳥かご」の鋳型に、許容容積を注ぎ込んでいくように、街が立ち上がっていく状況になりつつあるということである。
 旧法以来、用途地域制は土地建物利用規制の配置であると同時に、抽象的・機能的レベルで観念された将来土地利用への希望を込めた土地利用構想でもあると考えられてきた。しかしながら、近年の市街地高度化の進行状況の下で、土地建物規制の詳細が街の空間的な立ち上がりに強い効果を発揮する一方、抽象的レベルで観念された土地利用像と規制の実態的詳細が必ずしも合致していない問題が顕在化し(たとえば住機能を確保しえない住居地域)、物的な市街地形態についても、用途・機能の混合形態についても、市街地デザイン的レベルまで踏み込んだ将来市街地像を構想した上で、その実現を導く創造的・誘導的な土地利用・建築コントロールの確立が求められつつある。
 こうしたコントロールは、地域地区制による規制のみよって達成されるものではなく、したがって地区計画等による詳細規制や、総合設計等による誘導手法の役割が高まる一方、用途地域制については、これらの運用との役割分担をはかりながら、相補的な規制の基本枠組を提供する役割を果たすことが求められるようになってきた。
 つまり、従来の用途地域制は緩やかな規制枠組みであると同時に、抽象的・機能的レベルの市街地イメージを示した「構想」でもあり、この意味で、日本の用途地域制は構想的計画と規制枠組の未分化な統合でありえた。今日、規制・誘導手法の多様化・詳細化と、具象的・形態的レベルの市街地イメージの確立の要請は、一方で、構想を示す役割に特化した市町村マスタープランを生んだ。用途地域制は、構想を示す役割を離れ、規制・誘導手法のひとつとしての役割に特化しつつ、実現すべき市街地の具体像に即したカテゴリーと規制内容に再編されるべき時期に到達したということである。

2. 東京都区部典型15地区の更新動向調査から

 1992年から93年にかけ、日本都市計画学会の委託調査として、東京都区部の中から居住にかかわる典型的市街地15地区を抽出して、「バブル期」と呼ばれる時期を挟みながら、1980年代10年間で、どのような土地・建物利用更新が起きたのかを、立体的土地利用状況をも含め、詳細な調査を行う機会があった。[注1]
 以下では、この調査から得られた近年の居住にかかわる市街地の更新動向の実態を踏まえながら、土地建物利用規制・誘導手法の課題と地域地区制および土地利用計画の果たすべき役割について考察を加えることにしたい。なお、調査の主眼は居住にかかわる市街地の高度化の実態と、そのコントロール手法の考察にあるため、指定容積100%以下の1種住専地域は調査対象外となっている。したがって、市街化区域内農地に関わる問題や、郊外戸建住宅地、スプロール市街地に関する考察は視野の外にある。また、調査対象は、専用住宅地に限定せず、規制枠組みとしての住居系地域にも限定せず、住商・住工混在地も含む、実態として区部の居住を支えている市街地である。その意味で「居住にかかわる市街地」という呼び方を用いている。
 あくまでも、実態として高度化しつつある既成市街地の居住条件をいかに誘導すべきかという観点からの考察であり、しかも日本全体から見れば特殊な市街地ともいえる東京区部の状況に即した考察であることを、お許し願いたい。

2.1 80年代の一般的土地利用更新状況

 1980年代の更新状況を、変化にかかわった建物棟数で見ると、後半5年間の更新ペースは各地区おしなべて前半5年間の約2倍の勢いである。もちろん地区によっては後半期のペースが前半期の数倍に及ぶ地区もあり、逆に後半期には更新ペースがむしろ落ちた地区もいくつかある。この約10年間の更新を通じて、各地区に共通して、以下のような6つの特徴的な状況が生じつつある。

1)高度化の二重構造
 住み続けるための高度化ともいうべき現居住者による個別敷地単位での小規模な高度化と、接道条件の良い中規模な敷地や、敷地統合を経た大規模敷地での虫食い的・突出的高度化の二重構造が多くの地区で進行している。
具体的な建物タイプの対応関係は地区の特性に応じて様々な組み合わせがあるが、例えばそれは、オーナー住宅を最上層階に乗せた中層併用建物とゲタバキ型の高層併用マンションの対立関係であったり、オーナー住宅付きアパートとワンルーム・マンションであったりする。

2)敷地統合(地上げ)途上その他の空地・青空駐車場の増加
 大半の地区で、特に後半期には敷地統合途上と思われる空地・青空駐車場が相当数出現している。当分はこれ以上の敷地統合も、現存敷地での開発も進みにくい状況であるが、今後のさまざまな問題の種子となろう。

3)一部の中小新築オフィス、大規模マンションに見られる低い入居率
 高地価の都心周辺市街地、幹線道路沿道等に新築された中小オフィスビル、大規模マンションでは多数の空室をかかえたままと見られる物件も少なくない。

4)指定容積300%以上地域でのガワ・アン構造の明確化
 指定容積200%地区では基本的に160%の容積が許容されるため、接道条件の良い、いわゆる「ガワ」にあたる敷地と、4m以下道路に接する「アンコ」の敷地の間に、容積的にも高さとしても、大きな段差は生じない。面的な指定容積が300%以上になると、一般に地区外縁部の沿道に商業系の路線式指定がかかるケースが多いこともあって、まず指定用途容積自体が異なることによる地区レベルでの大きなガワ・アン構造と、さらに、6mクラスの道路で形成された大街区があれば、前面道路幅員による大街区レベルでの小さなガワ・アン構造が形成される。大きなガワ・アン構造では高層建物と中低層建物の段差が現れ、小さなガワ・アン構造では4・5階建てと3階建て以下の段差が現れる。
 さらに、このような基本的な構造の中に、街区奥深く食い込んだ敷地、裏街路まで突き抜けた敷地、などによって突出的な高度化がガワからアンへ持ち込まれることが一般的である。

5)戸建住宅の3階化・アパート一体化・二世帯化
 3階建て(もしくは半地下式車庫の上に2階建てを乗せた2.5階建て)の戸建住宅、従来の庭先型木賃アパートではなくオーナーの住宅と小規模アパートを立体的に一体化した「アパート一体型住宅(オーナー住宅付きアパート)」、および2世帯型住宅などが、多くの地区で後半期に多数出現している。

6)共同住宅化とペントハウス型併用住宅
 総じて、多くの地区で、調査前のわれわれの予想をはるかに超えて進行しているのが、共同住宅および併用住宅への更新である。共同住宅には高層マンションから、小規模中層アパート、2・3階建てのワンルーム・マンション、上記のオーナー住宅付きアパートまでさまざまなバリエーションがある。
 また併用住宅には付置義務住宅を乗せたオフィスから、ゲタバキ型高層マンション、上層階にオーナー住宅を乗せた小規模オフィス・商業ビル、さらにこれにアパートを付加したタイプ、自営店舗に自家居住用住居を乗せたタイプ(多くは中層)まで、さまざまなバリエーションがある。12mクラス以上の沿道ではゲタバキ型高層マンションと小規模中層併用住宅の併存、6m以下の沿道では小規模中層併用住宅が主流となる。建物高さや、中間階以下の用途は様々であるが、最上階に自家居住用住居を乗せた小規模中高層ペントハウス型併用住宅は指定容積200%以上の多くの地区で、特に後半期に多数出現しているのが特徴的である。

2.2 市街地類型別に見た市街地形成誘導の課題

1)下町型住商併用市街地の高度利用化と居住環境形成
 東京区部下町の震災復興区画整理地域にあたる住商(および工)混在市街地には、幹線道路沿道は別として、一般に、基盤状況に比べて過剰な容積率が指定されている。幹線道路に囲まれた内部は6m道路で大街区に区分され、さらに4m以下の道路で基礎街区が形成されている。4〜6mの前面道路では商業系で240%〜360%、住居系であれば160%〜240%の容積しか消化できない。
 また、伝統的な小規模併用住宅が集積している中に、工場・倉庫・銭湯などのやや大きな敷地が散在している敷地状況にあるのが一般的である。
 したがって、幹線道路沿道では敷地統合を伴なう高層オフィス、マンションの開発、その奥では個別敷地単位での更新によるペントハウス型中層併用住宅の住み分けによるガワ・アン構造が形成されつつある。
 そのような状況の中で、たまたま条件の良い大きな既存敷地や、幹線沿道から奥に向かって敷地をつなげていく地上げにより、「ガワ」に準じた高さとボリュームによる突出的な高度化が、中層ペントハウス型の「アン」に割り込んでくる現象が目立っている。
 一般に、これら地区では、都心近傍、あるいは駅から至近の地区を別にすれば、オフィス化圧力は低く、大規模敷地の高度化はマンション(ゲタバキ型を含む)、小規模敷地の高度化はペントハウス型併用住宅あるいは小規模中層アパートへの変化が中心となるため、住宅床は立体混在しながら一般に増加し、80年代を通じて人口が増加している地区や、80年代後半からは回復基調にある地区も存在する。一方で、入居率のきわめて低い新築マンションが散見されるのもこれら地区の特徴である。
 したがって、これら地区では量的な住宅床供給を促進することよりも、高度化を通じて形成されつつある住宅の質と居住環境を高い居住コストに見合うだけの魅力あるものに高めていくことが都心周辺居住の維持・強化の観点からは、もっとも重要なことであろう。

2)住工混在地域におけるミクロ混在の進行
 都心近傍の土地利用転換地区(たとえば芝浦港南地区)を別とすれば、大規模敷地で構成される混在地域は、従来の趨勢どおり、工場跡地のマンションへの転換が続いている。中小規模敷地の共同住宅化も盛んであるが、同時に併用工場の高度化によるペントハウス型中層併用工場や、アパート併設型併用工場も近年多数見られるようになっている。さらに、新規の小規模併用工場ミニ開発も盛んである。大田区などではむしろ工場数は増加傾向にあり、同時に高度化・共同住宅化の進行によって人口が増加している地区も少なくない。
 従来、住工混在地域については、マクロ混在・ミクロ純化の方向をめざすべきと考えられてきたが、現実には、マンションと併用工場ミニ開発の隣接、立体的住工複合の進行など、むしろミクロ混在がより進行している地域も少なくない状況である。
 一方で、区部におけるアフォーダブルな住宅供給という面では、なお住工混在地域における住宅系への高度化を促進すべきという政策判断もありえよう。住工のミクロ混在を前提とした、居住環境と工場操業環境の両立手法を検討することが大きな課題といえよう。
 また、芝浦を典型とする大規模開発中心の土地利用転換地区では、居住機能を支援する商業・サービス機能が自然発生的に成長する余地が乏しい。単に住宅床を確保するだけでなく、居住環境として不可欠な非住宅施設についても、その形成を誘導する手法が必要であろう。

3)幹線沿道のオフィス化・マンション化・ペントハウス型併用住宅化
 幹線道路沿道では、敷地統合を伴なう高層オフィス化、マンション化と、従前の2階建て住商併用建物の敷地単位での中高層化(多くはペントハウス型併用ビル、小規模ゲタバキ型マンション)とが同時進行しつつあるのが一般的であるが、どちらが卓越的であるかはローカルな事情によるところが大きい。
 また、南北に通る沿道で、高度地区がかかり、狭い間口の短冊形敷地が並ぶような地域では当然のことながら高層化がおきにくい。 また沿道後背地の街区形成が弱体で、特に裏街路までの奥行きが深いと、沿道から奥に深く敷地統合が起きやすく、突出した開発が後背地奥深く進入していくことになる。マンションであれば、必然的に奥深い住棟を建てることになり、多数の住戸が側面方向に主要開口を設けることになる。同種の開発が隣接すれば、これら住戸の居住環境は極端に悪化することになるし、逆に、隣接地は後背地的な低層の土地利用のままだとするなら、後背地はいずれ3方を高層棟に囲まれることになろう。
 従前の短冊形敷地単位で(あるいは隣接の敷地をいくつか統合した敷地で)高層共同住宅化する場合、敷地の奥行きが過度に深くなければ、各住戸は主要開口部を側面に設ける必要がなく、同種の開発が隣接した場合も居住環境が極端に悪化することはないが、いずれにせよ奥深い住棟の抑制、側面開口のコントロールは重要な課題である。この問題は、幹線沿道に限らず、併用住宅の個別更新によって中高層化する沿道一般に共通する問題でもある。
 オフィス開発の場合は間口が広い敷地でも奥行きの深い形態をとりうるため、後背地への影響はいっそう深刻である。この面からも、中高層階住居専用地区の適用は、広く幹線沿道一般で検討されて良い。
 また、車庫確保の深刻化から、近年では小規模開発であっても、沿道正面に車進入路を設け、1階車庫あるいは敷地奥の駐車場に車を引き込む形態をとる例が多い。また、住商併用建物であれば、業務用・来客用・居住者用のエントランスと駐車場、進入路を区分する必要も生じ、地表階の動線処理・有効利用が難しくなる。いずれにせよ、こうした車進入路が沿道に多数並ぶことは、沿道歩行者レベルの環境として大いに問題である。

4)山の手住居系市街地の高度化と住商業務併用化
 江戸の武家地の街区・敷地形状を受け継ぐ東京山の手の住居系市街地は、都心近傍にありながら、閑静・高燥な立地条件を備えた高級住宅地として評価され、特に後半期に急速に高級マンションへの更新が進んでいる。
 このような高級マンションへの高度化によって住宅床は大幅に増加しても、住戸規模が大きいこと、敷地統合途上で滅失した住戸も多数あることから、むしろ地区全体としては大きく人口を減少させている地区もあり、一方、3・4階建て容積200%前後の共同住宅の建ち並ぶ市街地に変容しつつ大幅に人口を増加させている地区もある。
 アフォーダビリティには目をつぶり、次代に継承しうる優良な都市資産が形成されれば良いとする考え方もありうるが、そうだとするなら、このような地区の街路環境はあまりに貧弱である。市民共有の資産ともいうべき沿道景観・街路環境の形成を積極的に検討すべき地区であるといえよう。
 また、こうした地区の外縁部の沿道や、谷筋には江戸の町地の街区・敷地形状を受け継いだ、併用住宅・小規模戸建住宅・小規模アパートの密集する路線的市街地が形成されているのが一般的である。これらの地区は、下町型住商併用市街地と沿道市街地の両者に類似した更新動向を示し、特に80年代後半期には、小規模中層併用住宅、小規模業務ビル、あるいは商業・業務と自家居住用住宅を積層した中層併用住宅などへの高度化と、老朽化したアパート、小規模戸建住宅などの空地化が目立っている。
 さらに、この谷筋と高台の中間に斜面や崖、坂道が存在することになるが、この斜面緑地の保全・育成や坂道の修景も重要な課題であろう。

5)低層住宅市街地の3階化・アパート化
 江戸の市街地の外側(概ね環6〜環7)にあたる地域は、従来、木賃アパート密集地帯と呼ばれる問題市街地である。幹線街路の後背地にあたる住宅地では、基盤状況・敷地状況にかかわらず、指定容積150%以上の地区で、3階建戸建住宅、3階建アパート一体型住宅が、特に後半期に急増している。200%以上の容積が指定された地域では6m道路沿道に4階建て前後の併用住宅や、併用アパート、アパート一体型住宅が、やや硬質な表情の街並を形成しつつあるが、こうした沿道の後背にあたる敷地では道路斜線・北側斜線の制約により3階化も困難な狭小敷地も多く、街区レベルでのガワ・アンの落差の問題、ガワの高度化のアンへの進入問題が顕在化しつつある。同時にこうした制約を強行突破しながら3階建てを実現している事例も少なからず存在しているようである。
 高さを抑えて建蔽率一杯の土地利用に追い込むより、むしろ斜線制限に変わる日照・採光確保のルールを導入しながら、3階化の積極的誘導をはかり、沿道緑化等を促進することを検討すべき地区といえよう。
 こうした地区では10年間の更新を通じて、おおむね住宅床を1〜2割増加させているが、もともと比較的高密な居住地であるため、人口は、傾向的にはおおむね200人/ha程度の地区人口密度に向かって、微減ないし微増の状況となっている。
 また、これらの地区では、アパート一体型住宅と、地区外所有者による不在地主型アパートが、ともに増加しているのが近年の特徴であるが、一般的傾向として、一体型アパートは容積にも余裕を残し、建物の質も高く、管理の手も行き届くことから緑化も積極的になされているのに対し、不在地主型アパートは高容積・低コストであり、緑化されている事例も少ない。土地・建物規制を通じて、これをコントロールすることは難しいが、税制・金融面での施策を通じて一体型アパートを優遇するなどの誘導策が検討されて良い。

3. 土地建物利用規制・誘導手法の課題と展望

 以上は、区部の居住にかかわる市街地の高度化にともなう問題の一端を紹介したにすぎないが、これだけを眺めただけでも、現行の地域地区制に基礎を置く土地・建物利用規制が望ましい市街地形成を誘導する機能を果たし得ていないことが確認されよう。
 日本の用途地域カテゴリーは、用途コントロールを通じた市街地の機能的な役割を想定してはいるが、形態的市街地像については、庭付き戸建住宅地を想定した1種住専と、中高層商業業務ビル街を想定した高容積商業地域を除けば、そもそも明確な市街地像との結びつきを欠いている。1992年の法改正で住居系用途地域が細分化されたが、これも許容する非住宅用途の内容と規模の段階を細区分したのであって、形態規制については従前のままである。したがって、たとえば第1種中高層住居専用地域と第2種中高層住居専用地域の市街地像の違いは、オフィス混在の有無や商業の規模の違いとして説明できても、具体的な街並みの姿の違いは鮮明ではない。
 一方、建築基準法を通じた建築形態のコントロールは、隣地や道路に迷惑を及ぼさないための枠組みという域にとどまっており、住居系地域とそれ以外で差が設けられているとはいえ、建物の用途に応じた差異や、周囲の市街地の状況に応じた差異を設ける余地はほとんどない。本来、市街地の土地利用をコントロールしようとする場合、形態の違いを捨象した機能のコントロールや、機能の違いを不問とした形態のコントロールが一定の効果を発揮しうるのは、社会経済的・文化的・技術的枠組みの中で機能と形態の結合を暗黙の内に想定しうるからであって、多様な機能と形態の結合が出現しつつある今日の市街地形成をコントロールしようとするなら、街や建物の機能に即した形態のコントロールが不可欠なのである。
 土地利用計画(およびそれに基づく土地利用コントロール)の目的は本来、多様なものであるが、あえて区分すれば、各種機能を持つ市街地および緑地のバランスのとれた配置の実現という広域的な視野に立つものと、各々の機能を担う地区の具体的な土地利用・市街地形態の実現というローカルな視野に立つものに大別される。
 広域的な土地利用配置についても、都市計画区域外との調整問題、白地地域の問題、緑地保全の問題等、課題は少なくないが、より問題なのは、広域的な土地利用配置を構成する要素となる各々の地区の内実が必ずしも効果的にコントロールされないことであり、そのことの反映として広域的な土地利用配置の計画も、きわめて抽象的・願望的なものにとどまらざるをえないことである。
 市街地の詳細を決めきるような計画・規制が実現されうるとも、また望ましいとも思えないが、現実に形成されつつある市街地の「型」を機能・形態の両面で的確にとらえ、それを望ましい方向に導き育てることが今日の日本の土地利用計画の主要課題のひとつであり、また、この課題に答えない限り、日本の、特に大都市の既成市街地は、型と型がぶつかりあう混沌を脱却することはできないであろう。

 以下、この課題にかかわるいくつかの論点を順不同ながら提示しておきたい。

1)斜線・容積型形態規制から街区・街並型形態規制への転換
 ガワからアンへの突出的高度化の進入や、中層ペントハウス型市街地における高層フラット型マンションの突出など、形成されつつある街のコンテクストを破壊する開発形態をコントロールすることは、敷地ごとに形態のさまざまに異なる斜線制限の「鳥かご」を、前面道路幅員によって異なる許容容積で埋めていくという、現行の形態規制方式の下ではきわめて困難である。
 街区単位で将来の街並の立ち上がり形態と立体的用途配置を想定した上で、この街区単位での街並の母型を順次敷地単位で満たしていくような、たとえば、既にニューヨーク市で住居系市街地について適用されているコンテクスチャル・ゾーニングのような、街区・街並型の市街地形成コントロール手法を導入することは、日本では困難であろうか。
 壁面の位置指定・建物高さ制限・中高層階住居専用地区などの個別手法を組み合わせ、ゼロロット・ルールや側面開口に関するデザイン・ルールを地区の状況に応じて導入する、という方式は検討されて良い。

2)沿道敷地の高度化にともなう課題
 上記の課題のバリエーションとも考えられるが、特に高容積指定の幹線沿道から後背地に向かって奥深く敷地をつなげ、高層・高容積の開発が低層住宅市街地に突出することは、問題が大きい。路線式用途地域指定の奥行きを超えた部分については何らかの高さ制限が課せられるルールが導入されて良い(たとえば上尾市の中山道沿道地区計画)。
 また、沿道からの車進入路(カーブカット)の多発の問題についても有効なコントロールを導入する必要があろう。隣地境界線上に進入路を共用で設置する方式など、地区の状況に応じた形式を検討する必要があろう。

3)3階化の積極的誘導にかかわる課題
 住居系地域では、4m以下の道路に接する狭小な敷地における3階建ての実現は道路斜線、高度地区指定による北側斜線によって困難であるケースが多い。住戸を積層しない戸建住宅やペントハウス型併用住宅であれば、住戸への採光は屋上から確保することができる。道路の採光についても、短距離で街区外周道路に出られる行き止まり状路地や、街区通り抜け型路地についてまで、画一的に確保すべきものであろうか。路地単位で基準法86条認定を柔軟に適用し、ゼロロット・屋上採光型住宅への協調建替を誘導する手法を検討すべきであろう。また、屋上採光型住宅の誘導のため、ガラス屋根付きの坪庭・光庭などを非建蔽地扱いとする運用についても検討する必要があろう。
 さらに1種住専150%地域(今後は1種低層住居専用地域)では高さ10m制限の下で、階高を極端に抑えたり、1階床を落とし込んだり、また斜線制限にあわせた複雑な形状の3階・屋根をしつらえたりと、無理な形態の3階建てが目立っている。望ましい3階建て住宅の形態を誘導しうる、高さ制限の数値と斜線制限の形態を再検討する必要があろう。

4)地区計画等による実現化の問題点
 上に提示した手法の多くは、いうまでもなく地区計画等の運用により実現が可能なものである。街区・街並型形態規制への転換については、想定する街区・街並形態に応じた用途容積地域(および特別高度地区)に指定替えを行うと同時に、壁面の位置、建物高さ、立体用途、用途別容積その他詳細について規制を加えれば良い。しかしながら、これには、いくつかの問題点がある。
 第1に、地区計画とセットとはいえ、ややスポット的な用途地域変更を行うことになり、用途地域指定基準等への背反が起きることである。ただし、一般には、用途・容積の緩和は必要なく、1種住専の10m高さ制限、特別高度地区による斜線制限、道路斜線による制限など、高さ規制の緩和と再編成が必要になるだけと思われるので、以下に示す問題が突破できれば、1種住専(低層住居専用地域)の高さ制限12m化を別にすれば、用途地域変更は不要である。
 第2は、ゼロロット・ルールの導入や隣地斜線緩和は基準法86条認定を通じて可能になるが、長期に渡る更新を通じて街区が形成されていくことを前提とする場合、現行の86条認定で、どこまで受けとめることができるかどうか、という問題である。
 第3は、街区内部の行き止まり道路や、通り抜け路地まわり等についても、協調建替などを誘導したいわけであるが、2項道路を含め、一部の公道に関する道路斜線を現行の86条認定を通じて緩和することができるかどうか、という問題である。
 第4は、制度的問題というよりは、運用上の問題であるが、地権者の合意をまとめつつ、地区固有の規制体系を個別に組み立てるという地区計画がまとめきれるか、という問題である。内容が基準化され、おおむねの地元合意が見えればやや高権的に指定が可能な特別用途地区などの一般規制と適切に役割分担が出来るなら、はるかに実現は容易となろう。

5)特別用途地区運用への期待
 特に幹線沿道や12mクラスの道路沿道の市街地形成誘導を念頭に置いた場合、地区計画による実現はいかにも迂遠である。業務の立地集積や、商業特化をはかるべき地区をのぞき、多くの沿道は中高層階住居専用地区が適用されるにふさわしい特性をそなえている。この場合、3階以上を住居専用に限定するといった適用から、3階以上の最上層階(あるいは最上層2階分)を住居専用に限定するといった適用まで、沿道の状況に応じた規制内容のバリエーションが必要となろう。また、単に上部階の用途を限定するだけでなく、沿道から一定奥行き以上の部分の高さ制限や、側面開口の制限、さらには車進入路の取り付け方、といった建物形態規制もセットとした運用を積極的に検討すべきである。

6)高さ・斜線制限の枠組みの再編
 一方、アンコの市街地を考えた場合、あえて2階建てに高さを抑制し、建蔽率一杯の土地利用や、更新の停滞、敷地売却・統合・不在地主型アパート化に追い込むより、3階化による伸びやかな高度化を誘導し、住み続ける更新を可能にし、場合によっては比較的低廉な家賃と行き届いた管理の期待できるアパート一体型住宅を確保し、沿道の緑化等を促進する施策が期待される。
 まず、1種住専の高さ制限12m指定や、特別高度地区の「鳥かご」形態は、この点を踏まえて運用改善・条例改正を検討すべきである。また、道路斜線制限は基準法の改正によって、敷地の奥行きが深ければ、周囲よりも高いものが建てられる方向に改変されてきた。街区・街並みの形成の観点からは、この方向は、むしろ改悪といわざるをえない。特に、一定の奥行きで制限がなくなってしまう現行の道路斜線制限が一律に適用されるのは問題が大きい。一定の奥行きに達した後は、その高さ制限が続く形の制限が望ましい場合も少なくない。
 そもそも、道路斜線制限は、道路空間と沿道敷地の環境確保を目的とした規制であって、現行法でも用途地域に応じた規制内容の差異が設けられているところであるが、用途地域というマクロな地区特性によってではなく、ややミクロな沿道の特性に応じて、その規制内容に差異を設けることを検討すべきである。
 たとえば、表通り的なアベニュー(後背地を守る壁の形成、軒や商店街の連続性を重視して一定階以上はセットバックさせる2段階壁面線型の規制)、横丁的なコミュニティ・ストリート(敷地奥を適切な高さに抑制、歩行者環境の向上のため、歩道状公開空地などの誘導を重視、誘導容積制の活用)、路地的なセミパブリック・パス(画一的斜線制限の協調型ルールによる置き換え、特に公道2項道路沿道の道路斜線制限緩和)、といった道路と沿道の性格に応じた多様な沿道高さ制限メニューが用意されるべきであろう。
 同時に、86条認定によらず、ゼロロットを可能にする安全条例の改正も検討されなければならない。当然、こうした3階化の誘導は、単なる規制緩和によって実現されるのではなく、いっそうの敷地細分化を予防する最低限敷地規模規制や、沿道緑化を誘導するセットバック、延焼防止その他相隣環境調整のための建物構造・開口部配置などに関するルールとセットで運用されなければならない。したがって、地区計画等の枠内で適用されるか、別途の特例許可を通じた運用を検討することになろう。また、特に月島などで想定される長屋の更新を目的として高密な3階化を誘導する場合には、屋上からの採光ルールの適用を伴った建蔽率制限の緩和も課題となろう。商業系用途地域と地区計画の組み合わせという解もあるが、むしろ、中層住居専用地区といった特別用途地区を政令で定めることも検討課題となろう。
 また、総合設計の適用によって道路斜線等の高さ制限が緩和されるが、これも一律基準型の画一的運用ではなく、地区や沿道の特性に応じ、むしろ軒や高さをそろえることを条件とする沿道、沿道前面に公開空地を設けるのではなく、中庭型空地や、街区内部にポケットパーク型の敷地外公開空地を設けることを条件とする地区、など、沿道や地区の市街地イメージを確立した上での適切な運用が必要である。総合設計制度は本来、市街地環境の向上に資すると認められる場合に特に許可される制度であるにもかかわらず、運用基準を一律に適用する一般規制型の(as-of-right的な)適用傾向が強くなっている。地区の下敷き的プランを踏まえた運用や、地区計画の枠組みの中で、誘導容積制などとの役割分担を踏まえた運用に転換すべき制度であろう。

7)都心居住の再構築
 居住にかかわる既成市街地の高度化誘導に関わる課題をもっぱら論じてきたが、最後に、都心居住確保の問題に触れておくべきであろう。
 まず、都心とは、まさに立地条件上も土地利用計画上も、商業業務立地がふさわしい地域であり、そうであってもなお一定の居住を確保しようとすることが都心居住確保の問題であり、一方、必ずしも商業業務立地が望ましくない場所であるにもかかわらず商業業務が散在的に立地しつつ住宅を駆逐することを抑止しようとすることを都心周辺居住確保の課題と定義したい。
 都心周辺居住確保については、まさに土地利用計画の確立と、規制の詳細化によって解かれるべき課題であるが、問題は商業業務特化が望ましいとする場所を、そうでない場所の規制を強化することを前提として、はたして特定することができるのか、端的にいえば、都心・副都心商業業務地の「線引き」ができるのか、という問題に帰着する。
 また、都心居住確保については、商業業務地にあっても一定量の住宅混在を確保しようということであるが、敷地単位で適量の住宅を確保しようとするミクロ混在的な考え方から、小さな住宅地を商業業務特化地域の中に点在的に確保しようとするミクロ純化的な考え方までのバリエーションがありうる。完全に均質な混在を確保しようとすれば、霞ヶ関の官庁の上にも公務員宿舎を乗せようとか、丸の内のオフィスビルの最上階は住宅にすべし、といった発想となるが、これを避けるとすれば、いずれにせよ、都心部は、商業業務特化地区、住商業務混在地区、住宅特化地区のモザイク模様となる。なりゆきまかせのモザイク形成を避けるとすれば、結局のところ都心部のきめ細かい土地利用計画の確立が必要となる。
 両者とも、帰着するところは、居住市街地形成誘導とは相互反転的な地と図の関係にある商業業務地形成の計画が確立できるかという問題である。詳細化された住居系用途地域や中高層階住居専用地区がどこまで活用できるかも、結局のところ現在策定中の区レベルの住宅マスタープランや、策定が予定される市町村マスタープランを通じて、商業業務地−住商業務混在地−住宅地の配置と内容に関わる土地利用計画が確立されるか否かにかかっているといえよう。


[注] 1. 東京土地利用研究会III(主査:森村道美 東京大学教授)。なお、実際の調査作業は、東京圏所在各大学の都市計画関係研究室の大学院生十数名のチームによって行われた。本稿は、同研究会報告書のまとめにあたる章(大方潤一郎文責)をもとに、加筆修正を加えたものである。