博士論文
概要
成熟時代を迎えた日本の都市計画の主要課題は、既成市街地の更新を通じて、生活の質の向上に寄与する魅力的な都市空間を創出し、それを持続的に維持・管理していくことです。この課題に応えるには、多様な主体が計画の策定及び実現過程に関与する必要があります。そこで求められるのは、多様な主体の関与を前提として、都市空間を再生し、それを持続的に維持・管理していく技法(方法と技術)ですが、そうした技法は未だ確立したものとは言えません。
そこで、本研究では、成熟都市の計画策定技法を探究する第一歩として、米国の主要なダウンタウン・プラン策定の事例(ポートランド・セントラル・シティ・プラン及びダウンタウン・シアトル土地利用・交通プラン)を取り上げ、その内実を詳細に分析し、そこで適用されていた計画策定技法を特定・体系化することを目的としました。
結論部分では、まず、「計画策定全体の方法」を、段階I:現状分析及び将来予測から得られた客観的情報と市民意見の収集・分析から得られた主観的情報に基づき、計画案の方向性を設定する段階、段階II:部分(地区別・分野別)の計画案から全体の計画案を構成し、計画案の評価を通じて部分または全体の計画案を調整(修正)し、計画案の選択肢を作成する段階、段階III:計画案の影響評価から得られた客観的情報と、計画案や影響評価に対する市民意見の収集・分析から得られた主観的情報に基づき、計画案の選択肢を絞り込む段階の3段階で捉えました。
そして、上記の各段階が計画策定作業の3側面(現状分析・将来予測、空間構想・空間構成、合意形成・意思決定)に対応する3種類の個別作業群で構成され、さらに、各個別作業は、理念的に次の3種類の技法として位置づけられる多数の具体的な技法によって支えられていることを示しました。3種類の技法とは、(1)現在及び未来の人口、経済、社会、空間等の状況を分析・記述する科学的技法、(2)様々な要求を両立させる空間的解決策を組み立てる創造的技法、(3)空間的解決策に関する多様な主体の合意形成と意思決定を適切に導く政治的技法です。
(村山顕人(2005)「平成16年度( 社)日本都市計画学会論文奨励賞を受賞して:成熟都市の計画策定技法の探究-米国諸都市のダウンタウン・プラン策定に見る方法と技術」都市計画 256 Vol.54 No.4 p.94 より抜粋)
PDF版ダウンロード
表紙・目次(PDF・636KB)
序章 研究の背景と目的(PDF・444KB)
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・1
序-1 既成市街地更新の課題と計画策定への期待
序-2 計画策定技法の研究・開発の必要性
序-3 1980年代米国諸都市におけるダウンタウン・プランの策定
序-4 研究の目的
序-5 研究の特徴:プランニング実践の事例研究
第1章 本研究の分析枠組み(PDF・772KB)
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・7
1-1 諸計画論の展開と共存
1-2 計画策定に関する規範とその特徴・限界
1-3 分析枠組みの設定
第2章 米国諸都市におけるダウンタウン政策の展開(PDF・4.9MB)
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・25
2-1 ダウンタウン政策の変遷:1945年から近年まで
2-2 オハイオ州クリーブランドにおけるダウンタウン政策の展開
2-3 コロラド州デンバーにおけるダウンタウン政策の展開
2-4 オレゴン州ポートランドにおけるダウンタウン政策の展開
2-5 ワシントン州シアトルにおけるダウンタウン政策の展開
2-6 小結
第3章 計画策定の体制と過程(PDF・2.7MB)
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・89
3-1 ポートランド・セントラル・シティ・プラン
3-2 ダウンタウン・シアトル土地利用・交通プラン
3-3 小結:計画策定の外形的特徴
第4章 ポートランド・セントラル・シティ・プランの策定(1):素材の準備(PDF・13.7MB)
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・105
4-1 デザイン・イベントの結果を出発点としたビジョン・目標・方針案の検討
4-2 調査・研究プログラムの作成と実施
4-3 専門家シャレットによる3つの純粋空間構造モデルの作成
4-4 空間構造モデルと5つの代替土地利用計画案の作成
4-5 分野別諮問委員会による報告と提案
4-6 フリーウェイ移設提案の検討(補論)
4-7 小結:計画策定技法に関わる要点
第5章 ポートランド・セントラル・シティ・プランの策定(2):計画案の構成(PDF・14.7MB)
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・167
5-1 土地利用コンセプト計画の作成
5-2 土地利用コンセプト計画の評価・修正と地区別代替案の作成
5-3 パブリック・レビューの結果を踏まえた地区別代替案の選択
5-4 最終計画案のとりまとめ
5-5 小結:計画策定技法に関わる要点
第6章 ダウンタウン・シアトル土地利用・交通プランの策定(1):素材の準備(PDF・3.6MB)
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・209
6-1 調査・研究の実施
6-2 課題・目標に関する意見の収集
6-3 代替計画案のためのガイドラインの作成
6-4 代替計画案の募集
6-5 小結:計画策定技法に関わる要点
第7章 ダウンタウン・シアトル土地利用・交通プランの策定(2):計画案の構成(PDF・18.0MB)
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・253
7-1 1982年代替計画案の作成
7-2 パブリック・レビューと密度・建物形態調査・研究の実施
7-3 土地利用・交通プラン素案及び環境影響評価書素案の作成
7-4 土地利用・交通プラン市長案及び環境影響評価書修正版の作成
7-5 小結:計画策定技法に関わる要点
結章 ダウンタウン・プラン策定に見る方法と技術(PDF・1.2MB)
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・313
結-1 各章のまとめ
結-2 ダウンタウン・プラン策定技法の体系
結-3 ダウンタウン・プラン策定に見る方法と技術
あとがき 成熟都市の計画策定技法の開発・適用に向けて
参考文献及びインタビュー先のリスト(PDF・584KB)
Akito Murayama (
)